こんにちは!おウマです
今回は『名馬の馬体診断』シリーズ2回目です!
名馬の写真や動画を使いながら、馬体診断講座で紹介してきた方法で実際に診断していくよ
名馬を馬体診断してみよう!
馬体診断講座では、全9回にわたって、馬体診断の方法を紹介してきました。
『名馬の馬体診断シリーズ』では応用編として、重賞で活躍するなど既に答えが出ている馬の募集時の写真や動画を使っていきます。
馬体診断結果と、実際の成績との比較も行い、結果に相違があった場合はなぜそうなったのか、その要因についても考察していきます。
良い馬体の写真をたくさん見ることで、良い馬体のシルエットや雰囲気を掴むトレーニングになりますので、今回例に挙げた馬以外でも、是非ご自分で試してみてください。
デアリングタクトの馬体診断結果
今回も、実際の名馬の馬体写真・動画に、これまでの馬体診断の方法を当てはめ、指標から導いた競走馬像と実際の成績の比較をしていきます。
今回の対象馬は『デアリングタクト』です。
馬体診断結果
まずは、デアリングタクトの馬体診断の結果を先にお知らせします。
適性:ダート・中距離
能力:優秀
注意点:弓脚による前脚の故障、気性面
馬体診断結果の根拠
繋ぎの硬さと、やや平行尻気味な特徴から、馬場適性はダートよりと判断しました。
芝適性を否定するものではありませんが、ダートの方が本来の力が発揮できる可能性が高いです。
距離適性は短~長距離それぞれに適性を示す特徴が見られ、器用さに欠ける印象です。
1800~2400mまでの狭い範囲と予想します。
肩が寝ていて、平行尻気味なので、やや長距離に振れる可能性がありますが、募集動画を見る限りでは、気性面に少し難がありそうなので、折り合いが大事な超長距離戦は不得手と思われます。
広い胸と短い背中、伸びのある腹のラインを有しており、パワフルなエンジンと伸びのある走りに大いに期待できます。
トモの大きさは平均的ですが、骨盤のブレはほとんど見られないので、トモの緩さに苦労することなく2歳戦の早い段階からアドバンテージを持って活躍できそうな馬体です。
能力面は申し分ないですが、トラブルとなる要因を多く孕んでいる馬体でもあります。
まず、わずかに弓脚であるために、屈腱炎などの腱や靱帯に負担が掛かりやすいです。
また、予想距離適性が中距離でありながら、短く太い首をしているため、スムーズな重心移動を阻害し、肩回りの筋肉には疲労がたまりやすい構造をしています。
総じて、高い能力により一定以上の成績は残せそうですが、定期的に足元や馬体のメンテナンスが必要となり、順調な競走馬生活を送ることが難しい可能性があります。
診断する項目
馬体診断講座で紹介した項目は以下の通りです。
『馬体診断講座』を読んでない方はこちらからどうぞ!
前回のアーモンドアイ編と同様に、『第一印象』についてはバイアスが掛かるのを避けるために除外して診断しています。
また、馬場適性を測る『繋ぎの角度』と、故障リスクを測る『繋ぎの角度』のように、目的は別でも同一箇所の診断となる場合は、まとめて記載するようにします。
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馬場適性の診断
ここからは、デアリングタクトの馬体写真と歩様動画を使って、馬体診断の項目ごとに細かく診断していき、冒頭の診断結果に至った経緯を紹介します。
まずは『繋ぎの角度と柔軟性』から、馬場適性を読み解いていきます。
同時に、『繋ぎの角度』による故障リスクもチェックします。
参考とした馬体写真
参考とした歩様動画
繋ぎの角度
繋ぎの角度は60.7度で、立った繋ぎをしています。
馬場適性についてはダート向きの特徴です。
立った繋ぎは、球節によるクッションが効きづらく、球節周りの靱帯へのダメージや骨折などのリスクを孕みます。
繋ぎの柔軟性
球節の沈み込みは甘く、繋ぎは硬いようです。
ダート向きの歩様で、特に加減点はありません。
距離適性の診断
続いて、以下の4項目から距離適性を診断していきます。
同時に、『尻の形』『首の太さ』によるリスク診断も行っています。
肩の角度
肩の角度は48.6度で、やや寝ています。
中・長距離向きの適性を示す馬体です。
ハリのある筋肉で力強さを感じます。
尻の形
正尻と平行尻の中間あたりです。
加速力が必要な短距離は向かない構造で、先行策で力を発揮することからダートでの適正が出やすい特徴です。
重心の高低
わずかに体長の方が長く、重心が低い馬体です。
顕著に差がある訳ではないので、距離適性に大きく影響するほどではありませんが、短・中距離で力を発揮できる馬体であると判断できます。
首の太さ・長さ
長く、やや太めの首をしています。
長距離向きの特徴ですが、太い首がスムーズな首の使いを妨げ、背腰に疲労が溜まりやすい特徴です。
馬の能力の診断
続いて、以下の6項目から馬の能力を診断していきます。
同時に、『管の長さ』『背の長さ』『骨盤のブレ』によるリスク診断も行っています。
胸の広さ
45度が及第点に対して、デアリングタクトの胸の広さは52.8度と、かなり角度が大きく優秀な心肺機能を有していることが予想されます。
前腕と管の比
前肢のうち前腕が占める割合が大きいので、前肢に豊富な筋肉を有していることが分かります。
前肢をしっかりと引き上げて遠くに着地させることができ、トモからの推進を効率よく進行方向に伝えることができると予想できます。
管は長すぎることなく、過度な負荷が掛かる構造ではありません。
首の使い方
耳を絞っており、リラックスして歩くことができていません。
そのため、一定のリズムではありませんが、頭は左右にしっかり振ることができています。
首の使い方は上手だと思いますが、カリカリとした気性面が心配です。
長躯短背
典型的な長躯短背の馬体です。
トモからの推進をスムーズに上半身に伝え、身体を大きく使った伸びのある走りに期待できます。
トモの大きさ
体躯に対してのトモの割合が33.5%で、三分の一以上を占めており、十分に大きなトモを有していることが分かります。
推進力のある走りに期待できます。
骨盤のブレ
左右のブレが少なく、芯が通った歩様です。
『トモの緩さ』に悩まされることなく、トモからの推進を効率よく前方に伝えることができそうです。
馬体が抱えるリスク
続いて、以下の4項目から馬体が抱えるリスクを診断していきます。
肢部白斑
四肢すべてに白斑は見られず、皮膚炎のリスクは低そうです。
同様に白い蹄も見られず、すべて黒蹄で蹄疾患に悩まされる可能性も低いでしょう。
同程度の条件の馬と悩んだ場合は、こちらを優先して良いと思います。
不正肢勢
弓脚です。
種子骨や繋靱帯、屈腱に多大な負担が掛かる特徴です。
内弧・外弧歩様
繋ぎ以下を内側に回して歩く内弧歩様です。
交突や蹄の変形のリスクがありますが、他部位次第で目を瞑ってもよいレベルです。
トモの肢勢
正常な肢勢です。
交突や蹄の変形のリスクは小さく、効率の良い走りができると予想できます。
適性の一致
ここまでの馬体診断から推察できた適性をまとめます。
ダートの適性優位を示す特徴を持った馬体です。
距離適性については、短・中・長距離、それぞれへの適性を示す指標が見られ、適性距離にブレが見られます。
短距離で必要な加速力と、長距離で必要な効率的な走りのいずれも突き抜けたものにならず、距離適性は中距離に限定されそうです。
診断お疲れさまでした!
それでは、診断結果の発表です!
馬体診断結果と戦績の比較
これまでのデアリングタクトの馬体診断を踏まえて、最終的な適性や能力の予想を立ててみましょう。
デアリングタクトの馬体診断結果
【総評】
適性:ダート・中距離
能力:優秀
注意点:弓脚による前脚の故障、気性面
デアリングタクトの戦績
日付 | 開催 | 距離 | レース名 | 着順 |
---|---|---|---|---|
2021/4/25 | シャティン | 芝2000 | QE2世C(G1) | 3 |
2021/3/14 | 中京 | 芝2000 | 金鯱賞(G2) | 2 |
2020/11/29 | 東京 | 芝2400 | ジャパンC(G1) | 3 |
2020/10/18 | 京都 | 芝2000 | 秋華賞(G1) | 1 |
2020/5/24 | 東京 | 芝2400 | 優駿牝馬(G1) | 1 |
2020/4/12 | 阪神 | 芝1600 | 桜花賞(G1) | 1 |
2020/2/8 | 京都 | 芝1600 | エルフィンステークス(L) | 1 |
2019/11/16 | 京都 | 芝1600 | 2歳新馬 | 1 |
史上初の無敗での牝馬三冠を達成した名牝です。
一戦ごとに松山弘平騎手と一緒に成長していく姿が印象的でした。
クラシック以降は芝2000~2400mのレースを走って、勝ち切れてはいませんが、G1の舞台で好成績を残しています。
2021年5月に繋靱帯炎による休養が発表され、2022年3月現在に至るまで、長期離脱を強いられています。
幹細胞移植の治療を受けたんだってね
幹細胞はありまーす!
STAP細胞みたいに言わないでよ笑
幹細胞はあるから笑
ところで、幹細胞移植って効果あるの??
屈腱炎の治療に使ったことがあるけど、なんとも言えないかな…
詳しくはこの記事でまとめてるから、気になる方はチェックしてみてください!
馬体診断結果と戦績の比較
馬体診断の結果では、デアリングタクトは『芝もこなせるが、ダートの中距離』という適性結果でした。
実績はご存じの通り無敗の牝馬三冠を達成した馬なので、一見、今回導いた適性とは異なる舞台で活躍をしているように見えます。
しかし、日本の競馬業界(特にJRA)では、芝馬が重用される傾向にありますので、ダート適性が予想される馬でも新馬戦は芝レースから、という風潮があります。
特に出資者を募る一口馬主クラブ馬などはその傾向が強く、バリバリのダート血統や足元に不安がある馬などを除いて、まずは芝を使って『適正なし』というところを出資者に理解してもらってからダート路線へ転向するケースがよく見られます。
デアリングタクトも同様に一口馬主クラブの募集馬ですから、陣営にもまずは芝でのデビューが前提という考えがあったと思われます。
そして、芝でのデビュー戦を勝った馬を、わざわざダート路線に切り替える馬主は当然おらず、壁にぶつかるまでは芝路線で行くのが自然な考えです。
その延長線上で牝馬三冠を達成したことは、デアリングタクトが持つ高い能力の産物でしょう。
距離適性については、クラシック以降は2000~2400mの舞台で戦っていることからも、陣営が中距離に適性があると判断した証拠と言えます。
また、オークスから秋華賞に直行した時のように、体質面の弱さが話題にあがる場面もあり、繋靱帯炎で長期休養を強いられている現状からも、足元や馬体への負担が掛かりやすい構造が、競走馬生活に影響を及ぼしていることが分かります。
2022年3月現在、まだデアリングタクトの詳細な復帰時期は出ていませんが、おそらく上半期中には復帰してくるでしょう。
歴史をつくった名牝として、その一挙手一投足に日本中の競馬ファンが注目しており、また、複数の出資者がいるという点で、大ナタを振りづらい状況だとは思います。
しかし、繋靱帯炎からの復帰戦、再発や他部位へのダメージなどを考えれば、ダートでの復帰は有効な選択肢のひとつです。
コーナーが少なくてコースが広く、足元への負担が少ない東京のダート2100mや、新潟のダート1800m辺りでの復帰を考えているのではないでしょうか。
そうなれば、足元の不安は抱えつつも、馬体が示す適性とマッチした舞台で、ますますの活躍が見られるのではないかと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今回は無敗の牝馬三冠を達成したデアリングタクトの馬体を診断しました。
馬体が示す適性でなければ活躍できないというわけではなく、ある程度の適性があれば、結局は能力勝負という身もふたもない結果となりましたが、非常に有意義な検証となりました。
おそらくほとんどの調教師たちは、このような検証は行わず、血統背景や経験則に基づくインスピレーション、あるいは馬主のこだわりなどによって、戦う舞台を決めていると思います。
上手く導かれて花開く馬もいれば、先入観に潰された馬たちも数多くいるでしょう。
モノ言わぬ馬を相手にする仕事なので、言葉では言い表せない感覚がとても大事な世界ではありますが、若い世代の調教師の中には、ある程度体系化してデータに基づいた調教やレースを取り入れているという話も聞こえてくるようになりました。
すべての馬が、持てる才能を最大限活かせる舞台で競い合う、そんな競馬の未来が訪れることを願っています。
皆さまの素敵な一口馬主クラブライフの一助となれば大変光栄です。
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最後まで読んでくれてありがとう!
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