
こんにちは!おウマです。
ユーマ、今回は何のおはなし?

今回は牧場で出会った馬のエピソードを紹介するよ!

お!
おウマみたいにしゃべれる馬もでてくるかな?

さすがにしゃべれる馬はいなかったけど、とても賢い子のエピソードもあるよ

そうなんだ!楽しみ~♪

みなさんも、ごゆっくり楽しんでいってください!
牧場で出会った馬たち
現在、競馬業界はウマ娘ブームの恩恵を受けて、昔のような賑わいを取り戻しつつあります。
牧場に身を置いていると、そのウマ娘たちと同じようにキャラが立った馬たちに出会うことがあるので、今回は特に印象深かった馬のエピソードを4つご紹介します。
○○から逃げろ

基本的に馬は臆病な生き物です。
草食動物なので、身の危険をいち早く察知するために、特に音や影には敏感です。
もちろん個体差があり、なんも気にしない心臓に毛が生えたような馬もいれば、逆に何もかもにビクッと反応するような超ビビりの馬もいます。
また、少しデリケートな話になりますが、インブリード(近親交配)が多いので、ネジが4,5本飛んでいるような、理解不能な行動をする馬もいます。
例えば、まだ騎乗調教を始める前の幼駒時代、毎朝放牧に出すためにそれぞれの厩舎から放牧地へ馬を連れていくのですが、1頭だけほぼ毎日同じところで何かに驚いたように逃げだそうとする馬がいました。
仔馬とはいえすごい力ですから、人馬共に危険なので、皆で原因究明に努めたのですが、驚いたときに周囲に物音や影はなく、なかなか原因が分かりません。
では逆に、驚かない日になにか共通点はないかと探ったところ、あるスタッフが「太陽かも‥」とつぶやきました。
たしかに、驚かない日を振り返ってみると、見事に曇りや雨の日と重なっていました。
しかも、その馬が決まって驚く場所は、厩舎の陰に隠れていた朝日がちょうど見えるようになるポイントで、その馬は太陽に驚いて逃げだしていたのでした。
その馬にとって初めての経験なら理解できるのですが、もともと馬という生き物は記憶力が良く、特に嫌な思いをした経験はたった一度だけでも一生忘れないと言われているにもかかわらず、その馬は退厩するまでずっと同じ位置で朝日に驚き、慣れるということを知らない馬でした。
太陽なので対策のしようがないですが、原因が分かってからは「来るぞ。来るぞ・・・キターwww」という感じで、毎朝のイベントとして楽しんでいました。

強烈な個性の馬だね…

毎日ホント大変だったよ…笑
他には、
・自分のおならに驚いて、めちゃくちゃキレながら虚空を蹴る馬
・自分のおち〇ち〇が気になって、覗き込んでひっくり返る馬
・餌を頬張ったまま水を飲もうとして、水桶に全部落として呆然とする馬
などなど、可笑しな行動を繰り返す馬は必ず世代に1頭はいました。
手が掛かる子ほど可愛いと言いますが、昔いた馬を思い出そうとすると、結局そういう馬ばかりが記憶に残ってます。
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人をあざむく馬

逆にめちゃくちゃ賢い馬もいました。
犬や猫と同じように、馬にも駆虫薬(虫下し)を与えるのですが、おいしいものではないので、基本的にどの馬も嫌がります。

こういうシリンジタイプの容器に入ったペーストを経口投与するのですが、口に入れただけでは吐き出してしまうので、飲み込むまで口を抑えて顎を上に持ち上げて投与していました。
駆虫薬を飲み込んだかどうかは、喉の「ゴクン」という音で判断していたのですが、ある馬が「ゴクン」と喉を鳴らして飲んだフリをして、手を離した瞬間に吐き出すことを覚えます。
それに対し、我々もバカではありませんから、以降は「空ゴクン」に騙されないように、きっちり飲み込むまでしばらく抑えた口を保持して対策していました。
しかし、今度は2,3回大きく喉を鳴らして飲み込んだアピールをした後、我々が馬房から離れてから隠れて吐き出すようになってしまいました。
投薬からしばらくして様子を見に来たら、寝藁に駆虫薬が落ちていたことで発覚したのですが、こりゃどうしようもないと、液体状の甘みのあるシロップタイプのものに変えて、餌に混ぜて与えるように変更しました。
ペーストよりも単価が高いので、基本的には使わないのですが、その子が自分の知恵で勝ち取った贅沢品ですね。
はじめての挫折

たまに舌をベロっと出したままにする遊びをする馬がいますが、それをすると我々スタッフが触りたがって可愛がるものですから、馬房で見てないところでもしょっちゅう舌遊びをするようになった、Aという馬がいました。
そのAが、向かいの馬房の馬Bに舌遊びをよく見せびらかしていたのですが、毎日しつこく見せるので、ある日Bも舌遊びを覚えてしまいます。
しかもBは舌を畳んで出すという独自の技も編み出していて、その技術とセンスに凹んだのか、Aは以降舌出しを辞めてしまいました。
目で見て技を盗んだだけでなく、それをさらに進化させてきたBも賢いですが、それを見て勝てないと悟って凹んだAが可愛くて、馬って本当に賢くて感情豊かな動物だなーと思った瞬間でした。
他には、
・毎日決まった場所でう〇ちをして、馬房の隅に糞塚をつくる几帳面な馬
・馬服を着せてるそばから、口でホックを外して脱ぎ捨てる馬
・粉薬を混ぜた餌の時は、大きな鼻息ですべて吹き飛ばしてから食べる馬
などなど、牧場の数だけエピソードとして語り継がれる天才児がいると思いますよ。

おウマは寝藁を一か所にかき集めて、フカフカにして寝るのが好きだったよ

いたいた、そういう馬。
集めたところ以外の床が露出するから、よく擦り傷とかつくってたよ…
性格やしぐさの遺伝

そういえば、おウマの両親はどんな馬だったの?

お父さんは会ったことないけど、お母さんは優しかったよ。
でもしゃべれるのはおウマだけ

そっか、お父さんと会うことはないもんね。
お母さんもしゃべれるのかと思ってたよ

そうそう。
でも、牧場のひとのはなしだと、お兄ちゃんもちょっとしゃべれたみたい

そうなの!?
やっぱり兄弟で似るもんなんだね

やっぱり?
他にもそういうおはなしがあるの?

あるよー
兄弟で同じことする悪い馬の話…
競馬はブラッドスポーツと称されるように、血統が良い方が好成績を残しやすいのは周知の事実ですよね。
良い母の仔は期待されていたほどではなかったとしても、なんだかんだで一定以上の成績は残します。
では成績以外の部分はどうでしょうか。
ここからは、親子兄弟の性格やしぐさの遺伝についてのエピソードをひとつ紹介します。
ゾルディック家

突然ですが、ゾルディック家をご存じでしょうか?
ゾルディック家はハンターハンターという漫画に出てくる、暗殺を生業とした一家なのですが、ゾルディック家の人たちは幼いころから英才教育を受けて、一流の暗殺術を身に付けています。
彼らは漫画の世界の登場人物たちですが、現実にも存在するんです。
馬という種族に姿を変えて…。

え?なにこのホラー展開

しーっ、静かに
本編始まるよ!
ある年、私が働いていた牧場に、一頭の栗毛の馬が預けられました。
1歳なのに立派な馬体で「ちょっと目つきが悪いけど、この仔は走りそうだねー」なんて会話をしていたのを覚えています。
たしかジャングルポケット産駒だったのでJとします。
じつはこのJが、人にケガをさせる必殺技を持っていて…。
翌日、水桶を替えようと馬房に入ると、Jは馬房の窓から外を見ていました。
「初めての場所だけど落ち着いて過ごせてるなー」と思いながら、水桶を替えて馬房の出口に近づいた瞬間、Jが歯をむき出しにしながら、ものすごい勢いでこっちに迫ってきます。
間一髪のところで馬房から逃げ出し、扉を閉めたのですが、Jは鉄格子の扉にガリガリと音を立てて噛みついていました。
背後から襲われそうになってショックでしたが「環境に慣れていない中、機嫌が悪かったのだろう。こちらの配慮が足りなかった」と思い過ごすことにしました。
しかし、その翌日、同じシチュエーションで別のスタッフが嚙みつかれて、背中に深い傷を負ってしまいます。
そしてその翌日も、また別の日にも。
2週間も経たないうちに、スタッフみんなの背中は歴戦の強者のような生傷が絶えない悲惨な有様になってしまいます。
なんとかせねばとスタッフ間で話し合った結果、Jの馬房に入る時は必ず二人体制で臨むことになりました。
それから、スタッフ間でお互いに背中を守りあいながら闘いの日を過ごし、ついにJが競馬場に旅立つ日がやってきます。
背中に刻まれた積年の恨みを抱えつつも、なんだかんだで可愛い馬だったので、憎まれ口を叩かれながらも、みんなに暖かく見送られて、Jは牧場から旅立っていきました。

Jが去って平和を取り戻した牧場でしたが、次はJの弟がやってくるという一報を受け、スタッフ間に緊張の糸が走ります。
Jの弟は、漆黒の毛並みが美しいスラっとしたイケメンでした。
ガサツで目つきが悪かったJと比較して「この仔は賢そうだねー」なんて会話をしていたのを覚えています…。
たしかジャングルポケット産駒だったのでPとします…。
Jの件があったので、最初の内はスタッフみんな気を付けながらPと接していました。
しかし、Pは背中を向けても噛みついてくることはなく、いつしか、皆安心してPの馬房に入るようになっていきます。
そんなある日、私がPの馬房の餌桶を交換しようと入っていくと、餌桶の前にPが立っていました。
「ちょっとどいてねー」と腰の辺りを押した瞬間、ものすごい勢いでこちらに体重をかけてきて、私はPと壁の間に挟まれてしまいます。
命の危険を感じたので必死に抵抗しましたが、Pは壁側の前脚を浮かせて、さらに体重をかけてきます。
虫をつぶす子どものような無邪気な殺意を感じました。
圧迫されているので、か細い声しか出なかったですが「誰か!たすけて!」と必死に叫ぶと、近くを通ったスタッフが発見してくれて、なんとか事なきを得ます。
まさか人生で「誰かたすけて!」というセリフを叫ぶことになるとは思いませんでした。
助けてくれたスタッフによると、その日の朝も、挟まれはしなかったけど同じような技をしてきたそうで、その日の内にJの時と同じく2人体制に切り替えることになりました。
それから、スタッフ間でお互いに見守りあいながらPとの闘いの日々を過ごし、ついにPが競馬場に旅立つ日がやってきます。
Jと同じく、Pもなんだかんだで可愛い馬だったので、憎まれ口を叩かれながらも、みんなに暖かく見送られて、Pは牧場から旅立っていきました。

やな予感しかしないよ‥

さすが、野生の感は鋭いね
Pが去って平和を取り戻した牧場でしたが、次はPの弟がやってくるという一報を受け、スタッフ間に再び緊張の糸が走ります。
Pの弟は、Pとよく似た黒く美しい毛並みの馬でした。
シンボリクリスエス産駒だったのでSとします。
JとPの件から、最初からみんなSを警戒していましたが、父馬がジャングルポケットからシンボリクリスエスに変わったので、心のどこかでさすがに今回は大丈夫だろうと希望的な予測をしていました。
しかし、その希望は早々に打ち砕かれます。
Sはエリートでした。
Jの噛みつき、Pの圧し潰しに加え、調教中は音速の横っ飛びで、我々スタッフの屍の山を築きます。
特に音速の横っ飛びの破壊力は凄まじく、調教中に急に目の前からSが居なくなるような感覚で、成す術なく落とされます。
この3兄弟の暗躍により、いつしかスタッフの間では、その母の仔たちを「ゾルディック家」と呼ぶようになりました。
そして、月日が流れ、ついにSが競馬場に旅立つ日がやってきます。
ゾルディック3兄弟との戦いを経た我々スタッフは屈強な戦士へと成長し、どこか清々しい気持ちでSを見送ります。
その翌日、Sの妹の入厩が決まるとも知らずに…。

なん…だと…?

もう少しで終わりまーす
Sの妹の入厩が決まり、新たな強敵(とも)の出現に心が躍った自分がいたことに驚きました。
Sの妹は、ゾルディック家初の女の仔で、長兄のJに似て目つき悪い鹿毛の仔でした。
ファルブラヴ産駒だったのでFとします。
当然のことながら、厳戒態勢で迎え入れられますが、待てども暮らせどもFが悪さをする気配がありません。
「ははーん、さては油断したところを背後からプスリのパターンだな」と警戒を続けますが、結局退厩する日までFが悪さをすることはありませんでした。
むしろ人懐こく、とても愛らしい馬だったと思います。
その後、何頭かゾルディック家を預かりましたが、女の仔はみんな愛嬌があって可愛い馬で、男の仔はなにかしらの必殺技を持っていました。
馬界のゾルディック家は、女の仔には厳しい暗殺者への道を進ませたくなかったのでしょうか。
ちなみに、今回登場した4頭ともレースでは活躍し、それなりの賞金を稼いでいました。
今もどこかでひっそりとその血を継いで、どこかのスタッフに悲鳴を上げさせていることを願っています。

長いよ!大作だったね

思い出話は長くなっちゃうね!
最後まで読んでくれてありがとうございます!

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